十四歳の少年の話です。自転車で通学する道で、一軒の家が目に留まりました。エントランスには緑が豊かに茂り、その奥に木壁の家がひっそりと佇んでいました。決して華やかな家ではないけれど、その姿に不思議な美しさと心地よさを感じ、強く記憶に残ったそうです。
少年は二十年後、忘れられないあの家を思い描きながら、自分の木の家をつくりました。「子どもながらに木の家って素敵だ、気持ちが良さそうだと。そのときに将来は木の家をつくろうと心に決め、大人になって夢を叶えました」。
少年が見た通学路の家は、今でも同じ場所にあり続けています。庭木は育ち、さらに豊かに葉を茂らせています。大切に手入れされて味わいを増した木壁の家は、住まい手が美しい暮らしを重ねてきた時間を物語るように、静謐な存在感を放っています。
後に少年は、家をつくることを生業とする道へ進みました。街角で出会った一軒の家が、一人の人生に影響を与えたのです。少年が大人になって建てた家は、その街でどんな佇まいを見せているでしょう。道行くだれかの記憶に残る家であればいいなと願うことです。