日ようのエッセイ

ふだんを、いちばんの幸福にする
家と暮らしの大切なこと

心の根っこ。

 ある小学生の男の子が、野外授業で先生が植物の話をしたときに、「先生、それはちがうよ」と間違いを指摘したと聞きました。普段は物静かな子ですが、自分が知識のある樹木の話については臆さず意見を言うことができたようです。

 その子は、家が自然豊かな土地にあり、幼い頃からいつも庭や里山で遊んできました。どんぐりを拾い、虫を育て、木に登って育ちました。その体験を通して、自然に対する深い知識がいつの間にか身に付いていたのでしょう。

 人生の核をつくる時期に、どんなものを見て、どんなものに触れるかは、とても大切です。自然が身近にあると、光のまぶしさ、風のにおい、葉のそよぐ音、土の手触り、火の熱さ…。五感を使って過ごす機会がたくさんあります。自然の摂理を肌で感じて育つと、子どもの心の中に力強い根っこが育まれるような気がします。

 時が経ち、件の小学生は成長し、もうすぐその家から巣立っていく時期を迎えていました。ひとつの夢を描き、遠くの地へ学びに旅立つとのこと。未来を語る目には、若者らしい輝きの中に、どこか静かな落ち着きがありました。希望を胸に、新しい世界へ。自然から学び取った生きる力を根っこにして、のびやかに枝葉を広げ、自分らしい花を咲かせてくれることでしょう。

 

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